●ブローエンジン解体新書〜オイルプレッシャースイッチのオソロシイ話〜
F10A,F8Aエンジンで走行距離を重ねたものは大抵オイルプレッシャースイッチからオイル漏れが発生します。この小さな部品を甘く見ていて、名機F8Aを闇に葬った、ある男の話です。
その日は高速道路を使用して日帰り400kmの走行予定でした。出発前にオイル、フィルターを交換。直前にはレベルにチェックもしていました。しかし・・・350km走行した段階で異音と共にこのエンジンは鼓動をやめ、眠りについてしまいました。
ロードサービスのお世話になり50km牽引されて帰宅後、レベルゲージにオイルが付着しませんでした。残量ゼロです。その時点ではクランクメタルが焼きついたと判断。異音の瞬間、クラッチを切り路側帯へ退避したのでダメージは最小限だと思っていましたが、今回オイルパンの移植の為クランク側から観察する機会がありました。
オイルポンプから一番遠い4番の様子がおかしいです。コンロッドキャップが飛び出ています。オイルパンにも打痕がついていました。1番シリンダー付近にあるプレッシャースイッチからオイルが噴出して一番奥の4番シリンダーのクランクメタルが焼き付き、コンロッドが折損しています。キャップボルトは入ったままです。焼きついた瞬間に駆動は切られていますが、高速走行の高負荷状態でトラブルが発生した為、被害が拡大してしまったようです。
ピストンを覗き見ます。完全に固着しています。
折損したコンロッドが斜めになった状態で息絶えています。ピストンピンも曲がり、暴れまわったコンロッドによりピストンスカートは全て破壊されています。クランクジャーナル部も深く傷ついてしまいました。バルブクラッシュの可能性も非常に高いです。
左からコンロッドキャップとコンロッドの一部、メタル、ピストンスカート。右画像は4番シリンダー内部全図。
コンロッドの付け根から千切れています。因みに、焼きつく寸前は非常に調子よく巡航していました。水温安定、油圧警告ランプ無点灯。プレッシャースイッチからオイルが噴出しだした時点で、スイッチは機能を失っているので警告灯は点灯しません。数少ないF8Aを壊してしまいました。最悪です。エンジンに誤魔化しは通用しない・・・・。
相当な高温となったのでしょう、真っ黒です。飴のように捻れたコンロッド。ピストンはコンロッドが首を降った位置が激しく破壊されているのがわかります。
左画像はクランクメタルです。左端の4番に向けて損傷が激しくなってゆきます。オイルが切れていった順序・・・・。右画像はコンロッドメタル。4番は消失(黒いクシャクシャの物体に変化)。どれもズタズタです。
メタルが溶着。ここがロックしたと考えられます。バランサーウエイトにはコンロッドによる打痕が残っています。
燃焼室は意外と普通の景色ですが、EXバルブが真っ白なのは積層したカーボンです。シリンダー内に落ちている白い半月状の物体が焼け落ちたカーボン層。バルブは突いていませんが、カムシャフトとロッカーアームはオイル切れにより損傷してしまいました。
上記から推理すると、恐らくプレッシャースイッチからオイルが漏れはじめ、油圧低下。ポンプから一番遠い4番がジワジワと焼き付きはじめ、オイル保持能力の低いコンロッドメタルが焼き付き、ロック。運動を続けるクランクに引っ張られてコンロッドが断裂し、フリーになって落ちてくるピストンとコンロッドをクランクが何度も突き上げ、掻き回して破壊。停止寸前に炸裂音がしたと思うのですが、オーバーヒートによりガスケットが吹き抜けたものでしょう。警告灯はともかく水温、油温が終始安定であったのも事実。オーバーヒートの現象は起きていませんのでオイルリークが原因であると判断して良いと思います。
このエンジンは損傷が激しく、生き残ったシリンダーブロックを墓石として永眠する事になりました。その他の部品はストック。いつの日か再びエイトの一部となることと思います。破損部品は標本として保存されます。
部品番号 37820-82002
少しでもオイル漏れの気があるオイルプレッシャースイッチは絶対に新品に交換しましょう。